艦長、新城ラリー出るんだってよ。



※この物語には、特殊な表現技法が用いられております。

どうしても中身についてきちんと理解をしたい方は、ＤＭＭオンラインゲーム「艦これ」をお試し下さい。
ゲーム開始に伴う意識障害、睡眠不足、引き篭もり等の発症について私は一切責任は負いかねます…

＜プロローグ＞

「作戦会議でしょうか？」

そう、今年も新城ラリーに出場させて頂く事になった。
我が軍の資金はとうに枯渇して、燃料、資材、弾薬、ポーキサイトもすっからかんであるというのに。
目の前に、「目標」って奴をぶら下げられると、そっぽを向きながらも歩き出してしまう哀しい性が…
そろそろ代謝も落ちてきて、がんがんレッドゾーンまで上がってるのは血圧だけという有様なのだが
「艦長、弾薬ですよ」と手を引かれ、「艦長、資材一式ですよ」と背中を押されて出て行かないようなら
男の名折れ、なのです。

「出撃だクマ！」

今回、最初に手をつけたのはクラッチ。次いで足回りを舗装用に。そして、ブレーキを点検し、
エンジンオイルとエレメントを換え、ラジエターを交換。
ドライブシャフトブーツを換えて、あとは痛んだ外板を板金するだけ。
今年こそ、前日にエンジン脱着なんていう無茶苦茶はゴメンなんだクマ…

＜長太城ドック　某日＞

だからあれ程ダメだって言ったのに。

心底歴史オタクで、書架には阿川弘之を中心に、帝国海軍関連の小説やら資料やらがいっぱい。
父親は外洋船の船乗りで、子供の頃は父の入港毎に各地の港を巡り、ウオーターラインシリーズを今も
こっそり買い集め、受験模試のＨＮにＧＦ長官と自称、実は視力で〇〇隊幹部候補生学校を
受験直前にあきらめたという隠された過去を持つ私に、そんなゲームは絶対に出会ってはいけない代物。
せっかくの整備日和と時間なのに、パソコンの前から動けない自分が。
恐るべし、オンラインゲーム｢艦これ」　40過ぎのオッサンのハートをこうも鷲掴みにするとは。

それだけではない。かつて自分が憧れた、凛々しき帝国海軍の軍艦達が、目がチカチカするくらいの
萌えキャラに変化して、強烈に脳裏に上書きされて行く。
そりゃね、軍艦はもとより、船舶は女性名詞、太古から女性として形容されてきたのはわかる。
金剛型戦艦は、昔から4姉妹だったわけだけど、そのまま擬人化するなんて…角川の馬鹿馬鹿馬鹿…

「馬鹿はアンタでしょうが！」

背後から罵声がする。樋口鍼灸院の双子の姉妹、メイカとメイナだ。
両サイドの板金修理の為に、カッティングを撤去、二人は我が艦を退艦したんじゃなかったか…？

「うちの鍼灸院から応援もらっておいて、ちゃんんと準備してるかどうか、見に来たんじゃないの！
そしたら、整備もしないで、何？パソコンでゲーム？あんた、ラリーをなめてんじゃないわよ！」

す、すみません。ちゃんと板金します。でも、とりあえずもう少しで第二艦隊が遠征から帰ってくるから
それまで、金剛のティーセットでお茶でも飲んで待っててよ。

「パソコンから離れて、ちゃんとこっち見て話ししろ、ゴラァ！」

強制的に首を捻じ曲げられた私は、メイカとメイナからこんこんとお説教を賜った。

「大体、去年の反省はしたのかしら？あわや雁峰で跳びかけて、我が身かわいさに
私の顔面をこすって走るなんて！痛車でラリーを走る事について、自覚が足りないのよ！
あのバニーさんなんて、林道で棒立ちになっても私たちだけは護ってくれたのよ！
「姉妹は無事です！」って。」

私はうなだれながら聞いている。　と、パソコンから声がする。

「提督、ゴーヤ、寂しいよぉ」

ああっ、いけない。伊58潜水艦を秘書に設定して放置すると、こんな切ない事を言い出すんだ。
じゃぁ、他のももしかして…

「真面目に人の話を聞いてんの、アンタ！？」

久しぶりにメイカとメイナのエレクトリックアタックが脳天に直撃し、私の意識は一瞬大破したが
脳内萌エネルギーによるダメコン発動で、ほどなく復帰した。

「そ、そろそろ赤城さんのお風呂タイマーが…」

「あんた、もしかして、私たちを裏切って、その艦娘とやらを載せようなんて考えてない？」

「いや、それは無い。断じてない。大体、天井とボンネットにはまだ二人がいるじゃぁないかクマ。」

「あんた、ちょっと、ほんとにおかしくなってない？そのクマって何？」

「いやいや、大丈夫だクマ。すぐよくなるクマ。」

私は首根っこをつかまれ、外へ連れ出され、ようやくスライドハンマーを手にした。

「性根を入れ換えて、板金しなさい！」

「了解なのですっ！」

どのくらいたったのだろう。板金用のハンマーでしたたかにしばかれて轟沈した私は、
蚊にくわれまくった痛みと痒みで覚醒した。
目の前には、雁峰で擦った傷と凹みがそのままにある。
そうだな、悪かったよ。今度はこんな擦り方はしないぜ。
ちゃんと棒立ちになって、電話で鍼灸院の先生に、「娘は無事です！」て伝えるよ。
いや違う、棒立ちもいかんだろ。そりゃ全くの轟沈ポーズだし…

それにしても、このあたりに、こう、なんだな、あの、「榛名」さんとか、「赤城」さんとか…

すみません、すみません。寝てません、寝てませんってば！

大丈夫、新城ラリーまでには、きっと「島風」さんも来てくれるから…

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